いまだ知る人ぞ知る、芸術表現の偉大なパイオニア

メレディス・モンクの創作と人生

ニューヨークのロフトで亀の“ニュートロン”と暮らす、三つ編みがトレードマークの女性。彼女の名はメレディス・モンク。作曲家であり歌手、演出家、振付家でもあり、さまざまな音楽劇や映画、インスタレーションを手がけるアーティストとして活躍。3オクターブ以上の声域の声を“楽器”と捉え、ジャンルを超越したオリジナルな表現を追求し続けている。ビョークは彼女のファンであることを公言し、デヴィッド・バーンやフィリップ・グラス、ブライアン・イーノ、日本でも坂本龍一、ダムタイプなどさまざまなアーティストに影響を与えた。

『メレディス・モンク 踊る声、歌う身体(からだ)』はメレディス・モンクをめぐるドキュメンタリー映画。豊富な舞台やパフォーマンスのアーカイブ映像にビョークやデヴィッド・バーンらへのインタビューを織り交ぜながら、メレディスの60年にもおよぶ活動の断片をコンセプト・アルバムのようにつなぎ合わせ、その独創的な表現と人生を描きだす。1969年グッゲンハイム美術館初の舞台型パフォーマンスとなった「ジュース」への重圧、日本公演も行われた舞台「少女教育」での気づき、壮大な現代オペラ「アトラス」完成までのトラブルと苦労、現代音楽の名盤「ドルメン・ミュージック」、ふたりの人生のパートナーとの出会いと別れ、母親への複雑な想い、そして残りの人生をみすえて作品を他人に委ねるための挑戦と葛藤……。その断章からは、1960年代の男性優位の社会の中で活動を始め、批評家からの冷笑にさらされながらも自身の道を歩みつづけたメレディスの、強くしなやかでチャーミングな人物像が浮かび上がる。現代における芸術表現の偉大なパイオニアでありながら、いまだ知る人ぞ知る存在であるメレディス・モンク。彼女の踊る声と歌う身体を目にすれば、きっと虜になるに違いない。

“メレディスの試みは境界を打ち破った”
デヴィッド・バーン

“私のDNAに確実に影響を与えている”
ビョーク

“仲間の中でも比類ない才能。今でもだ”
フィリップ・グラス

メレディス・モンク

Meredith Monk

作曲家、歌手、演出家、振付家であり新しいオペラや音楽劇、映画、インスタレーションの創造者。現代において最もユニークで影響力のあるアーティストの一人であり、現在では「拡張声楽技法」や「学際的パフォーマンス」と呼ばれる分野の先駆者でもある。声を楽器として、またそれ自体を雄弁な言語として探求する彼女の画期的な試みは、音楽的構成の境界を広げ、感情やエネルギーそして言葉にならない記憶を掘り起こすような音風景を生みだした。過去60年に渡り数多くの賞や栄誉を受賞。マッカーサーフェローシップ、フランス共和国芸術文化勲章オフィシエ、アメリカ芸術文化アカデミー協会員、グラミー賞ノミネート、ドロシー&リリアン・ギッシュ賞、国家芸術勲章など枚挙にいとまがない。国際的にも高く評価され、世界中の名だたる会場で公演が行われてきた。

モンクは1981年よりECMニュー・シリーズ・レーベルからアルバムを発表しており、またその音楽はテレンス・マリック、ジャン=リュック・ゴダール、デヴィッド・バーン、コーエン兄弟といった映画監督の作品でも使用されている。またオーケストラや室内楽、ソロ演奏のための新たなレパートリーも創作しており、いくつかの作品はブージー&ホークスから楽譜が出版されている。2023年秋から2024年春にかけて、ヨーロッパでの初の展覧会「メレディス・モンク:コーリング」がアムステルダムの旧教会とハートウィグ芸術財団、ミュンヘン芸術館の共同企画として開催された。活動60年を祝い2024年9月にはニューヨークのパーク・アベニュー・アーモリーで最新作「インドラの網」の公演を行いチケットは完売。2025年10月にはヴェネチア・ビエンナーレ・ムジカの生涯功労金獅子賞を受賞した。

監督:ビリー・シェバー 

Billy Shebar

エミー賞候補の映画監督。テルライド映画祭で上映されTV放映もされた短篇『High Noon on the Waterfront』(2022、ジョン・タトゥーロ、エドワード・ノートン出演)を監督し、メリル・ストリープ主演『アフター・ザ・レイン』(2007)では脚本を務めた。その他にニューヨーク・タイムズの人気webシリーズ「Trump Bites」(2018-2020/アニメーターのビル・プリンプトンと共作)、3部作のクライムドラマ「Doctor’s Orders」(2021/アニメーターのヨニ・グッドマンとの共作)などがある。

監督のことば

メレディス・モンクの音楽を初めて聴いたのは1990年、妻のケイティ・ガイシンガーが「アトラス」に参加した時のこと。それは今まで聴いたことのない音だった。ケイティが彼女と仕事をするにつれ、私のモンク音楽への愛も深まった。また同時に、彼女の創作の過程、そして気まぐれで時に性差別的でもある批評界に立ち向かう類まれな反抗心への興味もふくらんでいった。
3年前、モンクは1972年から仕事場にしているトライベッカのロフトのドアを開け、彼女の日常生活のリズムと、最新作「インドラの網」を制作する姿を私とクルーが捉えることを許してくれた。それだけではなく、映画、写真、手帳など膨大なアーカイブにアクセスすることも許された私たちは、彼女のアーティストとしての進化を深く理解することができた。包括的な伝記映画というよりは、モンクの作品の構造を反映したモザイク的な作品にしたかった。各章は1曲のモンクの楽曲を中心に構成され、彼女のライフワークへのユニークな扉となっている。モンクが自身の声を発見した60年代のカウンターカルチャーは、人種差別、性差別、消費主義、ベトナム戦争へ対抗する姿勢を示していた。彼女の作品はあからさまな政治性はないものの、その全ての価値観を体現するものであり、彼女が活動を始めた当時と同じように今なお人々の意識を広げてくれるだろう。モンクの音楽には聴く者を癒す力がある。何よりもそれが彼女にとって制作を続ける原動力であり、私にとってこの映画を作る原動力にもなったのだ。